弱者が強者に勝つためのランチェスター戦略 ⑵

ランチェスター戦略

市場シェアの目標値

1962年、(故)田岡氏は社会統計学者の斧田大公望氏とともに、クープマンモデルを解析し73.9%、41.7%、26.1%の市場シェア3大目標値を導き出しました。田岡・斧田シェア理論と言われています。

これらは実務上キリのよい75%、40%、25、などと覚えてもらってもよいと思います。

現在のシェアの競争上の位置づけと、市場に対する影響力などの現状分析と、短期、中期、長期のシェアアップ目標を策定する際の基準値です。

なぜ、敵を滅ぼさないのか? ~73.9%上限目標値~

73.9%を確保すれば、全ての競合他社を足しても26.1%にしかならず、約3倍の差をつけることができます。
いかなる戦いも終結させ、絶対的に一人勝ちできることから市場シェアの最終目標数値として位置づけられました。

大きな市場で一社が7割を超えるケースは、ハンバーガーチェーン市場におけるマクドナルド(75%)など、わずかしか存在しません。
大きな市場でシェア7割は独占禁止法の関係もあり、現実的な目標とはなりません。

しかし、ランチェスター戦略は市場を細分化し、個々の市場で競争地位別の戦い方をすることを指導原理にしています。商品、地域、販売経路、客層、顧客と市場を細分化していけば独占禁止法の影響は受けません。

それに弱者はニッチ市場を狙うことも戦略です。ニッチ市場で7割前後のシェアを誇る企業は数多くあります。たとえば、お茶漬けの素の市場規模は全体で150億円弱。永谷園はその76%を占めています。2位は5%程度です。

ではなぜ100%独占しないのでしょうか?

成長性

一社独占は必ずしも成長性、収益性、安全性が高いとはいえません。シェア100%はライバルがいない無競争で市場が縮する可能性があり、成長性が高いとはいえません。競争があるから各社、製品開発や営業活動などを行い需要が活性化され市場が拡大するのです。

収益性

シェア7割を超える会社は既に優良な顧客を確保し尽しています。一般に需要規模が小さすぎる先、移動効率が悪い先などが残ります。また、世の中には判官びいき(弱者を応援する気風の持ち主)がいるものです。そんなアンチ派にまで支持を広げるのに開発、販促、営業コストをかけるべきではありません。

安全性

100%独占は安全性が高いともいえません。メーカーが材料や部品を調達する場合、1社からしか調達できないと、仕入れるメーカーにとってはリスクですから、代替品を探し、その代替品によって市場そのものを失う恐れもあります。また、ランチェスター戦略では弱者は一騎討ちで市場参入せよというセオリーがありますから、1社独占ならライバル1社ですから勝率五割。弱者の狙い目となってしまいます。

以上から、100%独占は決してよい状態とはいえません。ライバルがいて、しかも強すぎず、束になってかかって来ても余裕で返り討ちにできる3倍のシェア差がある73.9%こそが、成長性、収益性、安全性が最も高まる上限の目標値となるのです。

首位独走の条件~41.7%安定目標値~

シンボル目標数値のなかで最も有名なのが41.7%安定目標値です。市場シェア40%は首位独走の条件です。

安定なら過半数の51%ではないかと思われるかもしれません。2社間競合なら51%を獲得してもライバルが49%なので安定とは言えず、73.9%を確保しなければなりません。しかし、全国区の総合的な競争では2社間競合は稀です。多くの業界は5社以上の競合があるので、40%でまず間違いなくダントツになれます。

ダントツになれば成長性、収益性、安全性が高まります。2位以下は消耗戦を仕掛けても太刀打ちできないので住み分けを意識するようになるからです。40%を下回ると1位であってもダントツとはいえないケースが増えます。

首位独走の条件~41.7%安定目標値~

26.1%を確保すれば多くの場合、1位すなわち強者になります。分散市場ではそれ以下であっても1位のケースもありますが、その多くの場合は2位とは僅差の1位ではないでしょうか。いつ逆転されてもおかしくない状況では1位といっても強者の戦略がとれない場合が多いのです。1位であれば、せめて26.1%は確保すべきです。そこから26.1%下限目標値が定義されました。下限とは強者の最低条件という意味です。

26.1%以上を確保すれば、仮に残り全てが合併しても73.9%を下回ります。その差は3倍未満です。これなら何とか生き残れますが、残り全てが合併して73.9%を上回ると、対抗できません。26.1%は、どんなことがあろうとも生き残ることのできる競争地位を示します。