弱者が強者に勝つためのランチェスター戦略 ⑴

ランチェスター戦略

弱者が勝つためのジャイアントキリング戦略「ランチェスター戦略」

ランチェスター戦略とは

企業間の営業・販売競争に勝ち残るための理論と実務の体系です。

第一章ではランチェスター戦略の成り立ちと、その原点であるランチェスター法則に触れた上で、そこから導き出された「弱者の戦略、強者の戦略」について解説します。

第二章では「市場シェア理論」と、その元となったクープマンモデルを、第三章では「ナンバーワン主義」をはじめとするランチェスター戦略の三つの結論を、そして第四章では四つの実務体系についてダイジェストで解説します。

第1章ランチェスター法則と弱者の戦略、強者の戦略

日本の企業を支えたランチェスター戦略

1970年代前半、オイルショックが起こりそれまでの高度経済成長期から一転して日本は大不況となり、激しい市場縮小の中、企業はどうやって勝ち残ったらよいのか、それまでのスピード勝負、体力勝負によらない、科学的かつ論理的な経営戦略、営業戦略が求められると考えた(故)田岡信夫氏が構築したのが成熟市場でも企業がサバイバルで勝ち残るためのランチェスター戦略でした。

取り入れた企業は大不況を乗り越え、今日もなお繁栄して続けています。トヨタ、パナソニック、日本生命、武田薬品などの大企業、またソフトバンク、HIS、フォーバルなど当時はまだベンチャー企業だった会社やその他多くの中小企業が数多くの実績を残したことで、その後のコンサルタントやマーケッターへ多大な影響をもたらしたことから、ランチェスター戦略は日本において競争戦略・販売戦略のバイブルといわれています。

ランチェスター戦略の歴史

日本で生まれた競争戦略ですが、もとは「ランチェスター法則」という戦争理論が、その原点となっています。

フレデリック・W・ランチェスター(1868年~1946年)

ランチェスター法則は、イギリス人の航空工学の研究者フレデリック•W•ランチェスター(18681946)が第一次世界大戦のとき提唱した「戦闘の法則」で、兵隊や戦闘機や戦車などの兵力数と武器の性能が戦闘力を決定づけるというものでした。

ランチェスター法則は第二次世界大戦中、米国海軍作戦研究班によって研究され、コロンビア大学の数学教授B.O.クープマンらが応用し、クープマンモデル(ランチェスター戦略方程式)とも言われる「戦争の法則」に発展していきます。

戦争時中の作戦研究(オペレーションズ・リサーチ)はその後、数学的、統計的な意思決定の方法として研究され、産業界にも広く活用されて革命的な発展の礎となってきました。

(故)田岡氏は1962年、社会統計学者の斧田大公望氏とクープマンモデルを解析し、市場シェアの3大目標数値を導き出しました。その後、研究と実務指導を重ね、1972年に著書「ランチェスター販売戦略」を出版。これによってランチェスター戦略は普及していきます。

勝ち負けのルール~ランチェスター法則

ランチェスター法則は戦闘における勝敗を示す軍事理論です。軍隊の強さや力を示す戦闘力は武器と兵力数で決まるというもので、武器は敵と味方の武器の性能や腕前を比率化した武器効率で捉えます。敵の2倍の性能の武器で戦えば味方の武器効率は2で、敵が味方の2倍の腕前なら味方の武器効率は0.5です。武器効率と兵力数を掛け合わせたものが軍隊の戦闘力になります。

勝ち負けのルール

ランチェスター第一法則

一対一が戦う一騎討ち戦のように、狭い範囲で(局地戦)、敵と近づいて戦う(接近戦)原始的な戦いの場合はランチェスター第一法則が有効的です。第一法則の結論は次の通りです。

戦闘力=武器効率 × 兵力数

同じ兵力数なら武器効率が高いほうが勝ち、同じ武器効率なら兵力数が多いほうが勝つといく実にシンプルな法則です。織田信長は鉄砲という最新兵器で勝ちました。豊臣秀吉は常に敵の数倍の兵力数で勝ちました。敵に勝つには敵を上回る武器か兵力数を用意すればよいのです。

ランチェスター第二法則

近代的な戦いの場合に適用するルールをランチェスター第二法則といいます。集団が同時に複数の敵に攻撃をすることのできる近代兵器(確率兵器という)を使って戦う戦闘方法を確率戦といいます。第二法則が適用される戦闘は確率戦で、広い範囲で(広域戦)、敵と離れて戦う(遠隔戦) 場合です。マシンガンを撃ち合う集団戦をイメージしてください。第二法則の結論は次の通りです。

戦闘力=武器効率 × 兵力数の2

第一法則との違いは兵力数が2乗となり、武器効率は変わりません。確率戦は相乗効果をあげるので兵力数が2乗に作用します。

2乗とは10なら100100なら10,000というように、とてつもなく大きくなります。つまり兵力が多いほうが圧倒的に有利なり、兵力の少ない軍は第二法則が適用する戦いでは勝つことは極めて困難です。

小が大に勝つ3原則

第一法則(一騎討ち戦、局地戦、接近戦) 戦闘力=武器効率×兵力数
第二法則(確率戦、広域戦、遠隔戦) 戦闘力=武器効率×兵力数の2乗

この二つの軍事法則から勝ち方の原則を導きだせます。まず兵力数が多い軍は常に有利です。特に第二法則が適用する戦いでは兵力数が2乗に作用しますから、圧倒的に有利になります。

では、小が大に勝つにはどうすればよいでしょうか。見ての通り第二法則適用下の戦いでは歯が立ちません。第一法則適用下であれば、武器効率を兵力の比以上に高めれば勝てます。
兵力数は増やせなくても、運用方法には工夫の余地があり、局地戦に持ち込み兵力を集中させれば、その局面においては兵力数をライバルよりも多くできます。軍事用語では局所優勢といいます。局所優勢の状況を維持して各個撃破していくのが有効な策と言えます。


つまり、ランチェスター法則から導き出される小が大に勝つ原則は以下の3つです。

  1. 奇襲の原則=ランチェスター第一法則が適用する一騎討ち戦、局地戦、接近戦といったゲリラ戦で戦う
  2. 武器の原則=武器効率を兵力比以上に高める
  3. 集中の原則=局所優勢となるよう兵力を集中し各個撃破する

またランチェスター法則に加えて、「孫子の兵法」から小が大に勝つ原則を導き出せます。

1.奇襲の原則、3.集中の原則は一致しています。孫子では2.武器の原則に関して、士気や勢いの重要性は強調されているいますが、武器の原則は強調されていません。また、ランチェスター法則からは直接的には読みとれない4つ目の原則、機動の原則を孫子では強調されています。風林火山です。孫子の兵法「風林火山」にとは

したがって、ランチェスター+孫子とすると、小が大に勝つ四原則となります。

  1. 奇襲の原則
  2. 武器の原則
  3. 集中の原則
  4. 機動の原則

ランチェスター法則をビジネスに応用する

軍事理論のランチェスター法則を企業間競争に応用すると、戦闘力を、顧客を開拓し売上を上げ利益を確保する「営業力」と置き換えます。

第一法則(一騎討ち戦、局地戦、接近戦) 営業力=武器効率×兵力数
第二法則(確率戦、広域戦、遠隔戦) 営業力=武器効率×兵力数の2乗

まず、大きく捉えるなら武器は商品力、兵力は販売力です。細かくは、情報力、技術開発力、品質や性能、ブランドなどの製品の付加価値、顧客対応力、営業パーソンのスキルなどの質的経営資源が武器になります。社員数、営業パーソン数、販売代理店の当社担当者数、製造現場の設備機器数、売り場面積、席数など、量的経営資源が兵力です。これら質的経営資源と量的経営資源を掛け合わせたものが企業の営業力を決定づけます。

戦闘における第一法則、第二法則はビジネスにどう応用できるでしょうか。大きく捉えるなら、特定の商品、地域、販路、顧客層、顧客といった部分的な競争なら第一法則が適用し、総合的、全体的な競争なら第二法則が適用します。総合的、全体的な競争の場合、量的経営資源が2乗のパワーとなることを意味します。量的経営資源の乏しい(小さい会社、業界二番手以下の会社)は、部分的な競争に持ち込まなければ勝ち目はないということです。

弱者の戦略と強者の戦略

ランチェスター法則が示す小が大に勝つ三つの原則から弱者の戦略が導き出されます。弱者の基本戦略は「差別化戦略」です。つまり武器効率を高めることです。差別化とは商品をはじめ、会社、人材、情報、サービスの質的な独自性、優位性を指します。

兵力を集中することを「一点集中主義」といいます。重点や集中という言葉も、一般によく使われていますが、ランチェスター戦略の場合は、兵力数の優位性から導かれています。つまり、量的な優位性を築くために、自社の経営資源を重点配分することが肝心要なポイントです。

このほか第一法則的な部分的な戦い方「局地戦(地域や領域の限定)」「接近戦(顧客に接近する販売経路、営業活動、顧客志向)」「一騎討ち戦(競合数の少ない競争)」「陽動戦(奇襲戦法)」が弱者の戦略です。

一方、兵力数の多い企業は第二法則的な総合的な戦いを行えば、圧勝できることから強者の戦略が導き出されます。強者の基本戦略を「ミート戦略」といいます。弱者の差別化戦略を封じ込めるという意味です。同質化競争に持ち込めば武器効率が同等となるので兵力数で勝敗が決まります。模倣、追随、二番手作戦などをミートと言います。

このほか第二法則的な総合的な戦い方「誘導戦(先手必勝のおびき出し作戦、新たな需要の創造)」、「確率戦(競合数の多い競争を重視、フルラインの品揃え、自社系列内競合など自社の力を重複化させる)」、「広域戦(地域や領域を限定せず拡大していく)」「遠隔戦(間接販売会社の力を活用、広告などの情報発信で顧客に接近する前に勝敗をつける)」、「総合主義(総合力で戦うこと)」が強者の戦略です。

弱者の戦略のなかで差別化、集中とともに重視しするべきが『接近戦』です。顧客のニーズを把握し、自社の差別化された強みを合致させていく接近戦です。そのため顧客接点の量的、質的優位性を築く必要があります。商品の差が見出しにくいほど、接近戦が決め手となってきます。

弱者と強者の定義

ランチェスター戦略は市場シェアを判断基準にして弱者と強者を定義づけます。強者とは市場シェア1位企業であり、弱者とは2位以下のすべての企業を指します。

市場シェア1位の企業のみが強者です。経営規模の大小ではありません。そして、この判断は競合局面ごとに検討します。商品、地域、販売経路、客層、顧客の別に分析しなければいけません。個々に観て行かないといけない理由は、弱者と強者とではとるべき戦略が180度違うからです。

市場シェア情報も乏しく自分が弱者か強者かの見極めが困難な会社は、とにかく迷ったら、弱者だと判断します。また成長してきた新興企業は数字上強者になっていたとしても、老舗企業の格やイメージが顧客や世間に残っていますので弱者の戦略をとるべきです。強者は弱者の戦略をとっても成り立ちますが、弱者が強者の戦略をとってしますと根本的に成り立ちません。ですから「迷ったら弱者」です。

弱者、強者は市場シェアで判断します。市場シェアは何%とるべきなのか、他社との差は何を意味するのかが重要なのです。