新規事業を立ち上げるためのプロセスと22のステップ

マーケティング

事業会社の中から新規事業を立ち上げることは簡単なことではない。

新規事業担当者として役割を与えられたあなたはまず何から検討するべきなのだろう。またどういうプロセスで検討するべきなのか。

新規事業を立ち上げるためには、新規事業の企画書を作成して社内で共有することがまず最初の目的となる。とはいっても、いきなり事業の企画書を白紙から作り出すことは不可能に近い。新規事業を立ち上げるためには、プロセスを踏まえることが大切だ。

新規事業を立ち上げるためのプロセスは細かく分けると、合計22のステップがある。そして、この22のプロセスは大きく4つのプロセスに分けることができる。

しかし、新規事業の成功を決めるのは、ビジネスモデルや製品規格の前段階に当たる2つフェーズなのだ。それが「市場性検討」と「事業性検討」である。

この2つのプロセスを事例を交えながらどのようにして検討するかを具体的に紹介しよう。

新規事業を立ち上げるプロセス:22のステップの全容

まず、新規事業を立ち上げるためのプロセスを解説しよう。

大きく分けると4つのフェーズに分けられる。これは上からそれぞれの質問に答えられれば、次のフェーズに移行することができる。

  1. 市場性はあるか?
  2. 事業性はあるか?
  3. 競争力は作れるか?
  4. 実現を確信できるか?

それでは、ひとつずつ見ていこう。

1.市場性の検討の6つのステップ

市場とは、毎日または定期的に多数の個人・法人が集まって商品売買を行う場のことだ。市場にどんな特徴がありどんな変化が起こるか予測する必要がある。

  1. 市場の見通しの予測
  2. 足がかりの市場の決定
  3. コンペリング・イベントの見極め
  4. 市場規模の推計
  5. 競合他社の動向調査
  6. 市場のライフサイクルの把握

2.事業性の検討の6つのステップ

事業性とは、営利目的で持続的に組織を運営できる製品(提供価値)を導出できる可能性があるかどうかを指す。

  1. 市場参入の意義の見極め
  2. 事業のミッションの決定
  3. ペインポイントの発見
  4. 最初の顧客セグメントの選定
  5. 事業の価値と影響を数値化
  6. 事業の価値を見極め

3.競争力の検討の6つのステップ

競争力の検討とは、強いビジネスモデルづくりができる可能性があるかどうかを指す。

  1. ビジネスモデルを設計
  2. パートナーシップの探索
  3. 顧客とのリレーションの検討
  4. 実用最小限の製品(MVP)の企画
  5. 価格体系の決定
  6. 事業収支及び投資計画の策定

4.実現性確信のための4つのステップ

実現の確信とは、実現に向けたハードル(障壁)やリスクを明確にでき、そしてその解決の可能性があるかどうかを指す。

  1. 不確実な要素の洗い出し
  2. 週次の実行計画の策定
  3. 初期チームの編成
  4. 出発の最終判断

この、6+6+6+4=22のステップが、新規事業を立ち上げプロセスの全てと言える。

新規事業の成功を決めるのは、「市場性」と「事業性」

新規事業を検討する現場では、「何を作るのか」や「いくらで売るのか」というプロダクトの細かい部分から、「どんなチームで取り組むのか」や「どんな計画で実行するのか」といった運営的な部分がよく議論されている。

しかし、新規事業において重要なのは、そもそも「新規事業として取り組むべき事業テーマなのか」という根本的な質問に自信を持って答えられることだ。

このとき、前半2つのフェーズにあたる「市場性と事業性の2つが有る」と断言できれば、勝てる新規事業を実現する可能性が大きく高まる。

つまり、市場性と事業性は次のように言い換えることができる。

  • 市場性:欲しい人がどれくらいいて、お金がどれくらい動くのか
  • 事業性:どんなペインポイントを解決して、誰が絶対に買うのか

耳馴染みのある表現を使えば、マーケットとビジネスが成り立つかどうかという両面のプロセスが必要になるわけだ。

市場性検討と事業性検討のプロセスがそれぞれ進捗するかどうかが、新規事業の成功確度を高める要素と言っていいだろう。

1.市場性を見極める

「市場性」というのは、どういう意味かを解説しよう。

市場とは、欲しい人とお金をマッチングさせる場のことだ。こうした場が成立し、伸びていくのかどうかを検討する。耳馴染みのある表現をすれば、「市場が形成され、市場が成長するかどうか」を検討する。

まず、市場性を見極めるプロセスでは、次の点を明快に説明できるようにすることが目的だ。

  • 出そうとしている製品は、どんな市場でビジネスしようとしているのか
  • その市場は伸びるのか、あるいは市場形成の蓋然性(※)は高まっているのか

(※:蓋然性とは、ある事象が実際に起こるか否か、真であるか否かの確実性の度合い)

1-1.市場性の検討のやり方

市場性検討の内容として例を挙げる。

  • 市場形成の蓋然性
  • 市場の成長性や見通し
  • 市場の構造や構成
  • 市場の特徴
  • 市場成長のトリガー
  • 市場プレーヤー(既存プレーヤー、新規プレーヤーなど)
  • 市場のリスク

具体的なケーススタディとして、あなたがリチウムバッテリーの新規事業を立ち上げる場合、どのようにして市場性を検討すればいいのかをわかりやすく解説しよう。

事例:リチウムバッテリー市場の場合

市場性検討のためにデスクリサーチを行うことで「リチウムバッテリー市場は大きな転換点が来ている」ということがわかるだろう。

  • 2017年にフランスが、2040年までにガソリン車の販売を禁止すると発表
  • ノルウェーやオランダでも2025年までにガソリン車販売が禁止される予定

こうした生活が変わり得る大きな転換点のことを、コンペリングイベントという。

つまりこの場合、世界中で今後ガソリン車からEV車へのシフトが明確になっているのである。実際に世界中で工場や設備に投資をする企業が増加していることも、あなたは知ることができる。

  • テスラモーターズが50億ドル規模のネバダ州バッテリー工場へ投資
  • 中国企業が非常に巨大な設備を投資

これまでのリチウムバッテリー市場は、「バッテリー用途=スマホ」で電子機器の成長と相関関係にあった。しかし、今後は「バッテリー用途=車載」となり、市場は電気自動車の成長と相関関係ができてくると検討できるのだ。

市場検討の蓋然性と不確実性

リチウムバッテリー市場の事例のように、「市場が今後どのように成長していくのか」「構成やプレーヤーが変わってくるのか」という情報から市場を精度高く理解できるようにすることを目指してほしい。

ただし、「市場に不確実な要素は残っていた方が良い」という事実も念頭にいれておくべきだ。これは、精度高く理解できる状態というのは市場が成熟しており、新規事業として参入するとしてはあまり適切ではないとも言える。

1-2.会社が期待する事業の規模に釣り合う市場かどうか

市場性の検討が進んできたら、市場の見通しを推計する。外部情報には多くの市場推計データがあり参考にするのは良いが、意思決定に使うのは少々危険である。そのため、ヒアリング活動を通じて市場の見通しを正確に推計していく。

市場の見通しというのは、市場規模と事業投資が釣り合うかどうかを測ることだ。

会社の投資余力と釣り合わないほど市場規模が巨大、その市場は参入するにはリスクや負担が大きすぎるかもしれない。逆に市場規模があまりにも小さいと、会社が期待する事業に成長しない可能性があり、参入意義が薄れる可能性がある。

従って、会社が期待する事業の規模に釣り合う市場を検討しているのか、よく見極めて欲しい。

1-3.会社が期待するシェアが取れる市場かどうか

また、市場性を検討するプロセスの中で、どの程度シェアが取れるのか、市場プレーヤーの構成を見ながら検討する。

例えば、「新規事業で、30億円の売り上げを目指す」とした場合を想定しよう。

  1. 3,000億円の市場でシェア1%を獲る事業を目指す
  2. 100億円の市場でシェア30%を獲る事業を目指す

どちらも「30億円の売り上げを目指す」ということは同じだが、ビジネスモデルの検討は大きく変わってくる。

例えば、化粧品市場は約2.7兆円の大きな市場であるが、顧客ニーズが細分化されているため、一つのブランドが獲得できるシェアは数%しかない。そのため化粧品市場で一つのブランドで30%のシェアを獲るというシナリオは現実味がない。

一方、ブラシレスDCモーター市場は、性能や価格で明確に定義できるため、市場評価の高い企業に注文が集中してシェアが偏る。実際日本電産はブラシレスDCモータの世界シェアNo.1メーカーでHDD用スピンドルモーターでは実に世界シェアの80%を占めている。つまり独占状態だ。

新規事業として参入しようとしている市場の市場性を正しく理解することが、事業の形を決めると言っていいだろう。

2.事業性を見極める

次に、事業性を見極めるプロセスである。

このプロセスでは、誰向けに何を売るビジネスをしようとしているのか。何より強力なスポンサー(お金を出さずにはいられない企業・人)は誰かを検討するプロセスである。

事業性とは、そのまま「ビジネスとして成立しているか」ということだ。

お金を出すかもしれない、ではなく『お金を出さずにはいられない』という状態になっている企業・部署・人に、最適な商品やサービスを提供できる状態になっていることが事業として成立している状態だ。

こうした「お金を払ってでも解決したい」という痛切なニーズのことを、「ペインポイント」と呼ぶ。

つまりこのプロセスでは、企業・部署・人と商品やサービスのマッチングが成立することで、商取引が成立するどうかを検討する。

2-1.事業性検討の内容

事業性検討の内容として例を挙げる。

  • ターゲットの特徴
  • ターゲット顧客の購入蓋然性
  • ターゲットにマッチする商品・サービス要件(提供価値など)
  • ターゲットを構成するセグメントのボリューム
  • ターゲットのポジショニング
  • ターゲットとの関係構築
  • 事業を構成するプレーヤー(協業相手など)
  • 事業のリスク

例えば、CCFL(冷陰極蛍光ランプ)事業の事業性について検討したとしよう。こちらも具体的な事例を持って説明しよう。

事例:CCFL事業の場合

CCFLは「冷陰極蛍光ランプ」という、電極を加熱しないで電子を放出して点灯する明かりのことだ。

CCFLを従来の蛍光灯と比較すると、次の3つのメリットがあったのだ。

  1. 蛍光灯よりも長寿命
  2. LEDと同等の省電力
  3. 価格がLEDよりも安かった(※2010年頃まで)

ただしCCFLを生産している企業が少ないため、CCFLに対応した照明器具や取り付け具が少ないのが欠点である。CCFLは蛍光灯よりも運用コストが安くなるのだが、初期設置コストがかかるため、蛍光灯からなかなかスイッチしなかった。

課題:誰がCCFLにお金を出すのか

その後、東日本大震災以降、電力消費への関心が社会的に多く高まり、少しでも節電しようという取り組みが増えた結果、「LEDは高いから、CCFLを採用しよう」と考える企業が蛍光灯からCCFLへの切り替えを判断した。

しかし、その後LED生産の設備投資が増えたことで、結局LEDはコストダウンし、CCFLの強みは相対的に低くなり、CCFLを採用する魅力は小さくなってしまった。

このことからわかるのは、「CCFLじゃないとお金を出さない」というペインポイントが明確にならないと短期的、あるいは突発的には商売になっても、中期的には事業になりにくいことを示唆している。

2-2.お金を出さずにはいられないのは誰か

事業性を検討するプロセスでは、短期的・中期的にお客が絶対にいる(増える)ということを確信できるまで検討や調査を行うべきである。

  1. 継続して需要があるのか
  2. 誰がお金を払うのか
  3. いくらなら導入できるのか

こうした質問に明快に答えられるようになってくると、事業性は高くなってきたと言えるだろう。

そのためには、細かく顧客を理解していく必要があり、マクロで捉えた分析では確信は得られにくい。事業の蓋然性がなかなか高まらない場合もある。その時はアクションプランを複数想定しておき、並行して検討できるようにしておかなければならない。

まとめ:新規事業の立ち上げを成功させるのは「市場性」と「事業性」

新規事業の成功を決める2つのプロセスである「市場性検討プロセス」と「事業性検討プロセス」は、新規事業検討の基本プロセスとも言える。

そして、市場性と事業性を検討した後に、具体的にどのように実行していくのかを検討するプロセスに移行していく。

これらの新規事業立ち上げプロセスについて、FINCHでは詳細な資料を無料で用意しているので参考にしてほしい。

このとき、「市場性があるのか」「事業性があるのか」という2つの質問を明快に答えられるようになっている頃には、新規事業の骨格は完成しつつあると言って良いだろう。

多くの企業が何万、何十万と新規事業を企画している中、頭一つ飛び出た新規事業に取り組むためには、これらプロセスを愚直に繰り返すしかない。