一人当たりの付加価値・人件費、労働分配率

生産性は、ヒト、モノ、カネ、情報という経営資源の中でとりわけ重要な経営資源である「人材の活用度」を分析するもので、その目的は人材の「付加価値」の獲得能力をチェックすることにあります。

「付加価値」の計算方法には控除法と積上法というこつの方法がありますが、実務的には控除法がわかりやすく計算も簡単です。

「付加価値」は会社が経営活動の中から生み出した経済的な価値であり、控除法では売上高から売上原価の中に含まれる外部から購入した経費(商品仕入高、原材料費、外注加工費、消耗品費)を差し引くことで計算できます。「付加価値」は卸売業、小売業などでは「粗利益」と言われているものであり、製造業、建設業などでは「加工高」と言われているものです。
生産性指標としては次のものが存在します。

(1)一人当たり付加価値(月)
(2)一人当たり人件費(月)
(3)付加価値分配率(労働分配率)・人財生産性



(1)一人当たり付加価値(月)
一人当たり付加価値(月)=(付加価値÷12)÷従業員数

「一人当たり付加価値」は生産性の中では最も重要な指標です。
この指標は従業員一人当たりの稼ぐ力であり、誰にも大変わかりやすいことから、一人当たり付加価値を必達目標として経営している中小企業は多いと思います。

収益性の指標の一つに付加価値率があり、付加価値率の高い会社は一般的に優良会社であることを収益性(利益の獲得力を分析する)で述べましたが、たとえ付加価値率が低くても、一人当たり付加価値が高ければその会社は生産性が優れていることで優良会社と言えます。
他社がまねのできない省力化された効率性の高い製造、販売、サービス提供システムを考案し、一人当たり生産性を高めた会社は優良企業です。インターネットが進化する中で、このタイプの優良会社が今後もどんどん生まれてくるでしょう。



(2)一人当たり人件費(月)
一人当たり人件費(月)=(人件費÷12)÷従業員数

人件費には、賃金、給与、賞与以外に退職金、法定福利費、厚生費などの総人件費が含まれます。
「一人当たり人件費」は高ければ高いほど従業員にとっては望ましいことになりますが、高い人件費を支払うことのできる源泉は付加価値にあります。付加価値とのバランスを欠いた高い人件費は利益を圧迫することになります。このバランスについては(3)をご覧ください。



(3)付加価値分配率(労働分配率)・人財生産性
付加価値分配率(労働分配率)=人件費÷付加価値×100
人財生産性=付加価値÷人件費

「付加価値分配率」は、付加価値に占める人件費の割合を示しています。
付加価値分配率は「労働分配率」ともいわれます。この比率の上昇は人件費の増加率が労働生産性の上昇を上回っていることを意味しており、早めに対策を講じないと収益性が悪化し、人件費の負担が重くなってきます。

付加価値分配率は業種によってバラツキが大きいのですが、中小企業では労働集約的な産業である小売業、飲食業、サービス業で50~60%、製造業、卸売業では45~55%といったところでしょう。
理想を言えば、付加価値分配率を一定に保ちながら、より高い一人当たり人件費を支払うことのできる付加価値を稼ぐことを経営目標とすべきでしょう。

売上減少に対して耐久力をつけるためには、売上に合わせて固定費をコントロールすること、とりわけ固定費の大半を占める人件費の総額コントロールが重要です。
人件費は次のような適正人員管理をすることによって、必要最低限の人員で経営を行えるように人員計画を立てることです。

付加価値×許容付加価値分配率=許容人件費
許容人件費÷一人当たり人件費=適正人員数

※許容付加価値分配率の考え方に決まりはありませんが、営業利益と経常利益が共に黒字であることが許容範囲でしょう。

なお、付加価値分配率の逆数(付加価値÷人件費)を「人財生産性」と言いますが(会社を長期にわたって繁栄成長させる原動力となる人こそ最高の経営資源であると言えます。人財という言葉にはこのような財産となり得る人材の意が込められています)、この数値は高いほど従業員が人件費に比べて高い付加価値を稼ぎ出していることを意味しています。つまり、従業員一人一人が自分の人件費の何倍の付加価値を稼いでいるかを表す指標と言えます。
人財生産性は2倍以上であれば優良会社と言っていいでしょう。