自己資本比率・流動比率・当座比率・固定比率・固定長期適合率

安全性は、貸借対照表の資金の運用状態を表す資産と、資金の調達源泉である負債(他人資本)・資本(自己資本)のバランスを見ることによって、会社が資金的に余裕を持って経営しているかどうかをチェックする指標です。安全性は会社の財政状態を分析する指標であり、経営成績を分析する収益性指標と並んで大変重要な指標と言えます。
安全性指標としては次のものが存在します。

(1)自己資本比率
(2)流動比率
(3)当座比率
(4)固定比率
(5)固定長期適合率



(1)自己資本比率
自己資本比率=自己資本÷総資本×100

自己資本比率は会社の財政状態の健全性を表す最も代表的な指標です。自己資本比率は株主資本比率と言われることもあります。
分子の自己資本は、株主からの出資金と会社がこれまで稼いできた利益の累積である剰余金であり、いずれも返済する必要がない資金です。総資本(貸借対照表の左側の合計=総資産)に占める自己資本の割合が高いということは経営は当然安全度が高いと言えます。50%以上であれば優良企業でしょう。

この比率が低すぎる場合の対策は二つです。分子の自己資本を増やすために株主から増資により資金を集めるか、収益性を改善し、利益を上げて内部留保をすすめることです。(内部留保については、「貸借対照表」で財務バランスをつかもうの「B/Sの右側」をご参照。)

しかしながら、中小企業における自己資本比率の短期的で抜本的な改善策はなんといっても分母の総資本の圧縮です。貸借対照表の左側(資産の部)に着目し、経営上無駄な資産を徹底的に削減することです。
ちなみに、自己資本比率がもしマイナスということであれば、この会社は債務超過に陥っているわけで、実質的には倒産会社であると言えます。

逆に自己資本比率があまりに高い場合は経営が保守的になっていることもあり、成長性が十分かどうかをチェックすることも必要です。



(2)流動比率
流動比率=流動資産÷流動負債×100

流動比率は、会社の短期的(一年以内)な支払い能力がどの程度であるかを表す比率です。
この比率が高いと資金の流動性が高く、支払い能力が高いと言えます。かみくだいて言いますと、この数式は、一年以内にキャッシュになる流動資産を、一年以内に支払わなければならない流動負債で割ったものですので、流動比率が100%以上であれば一年以内に手に入るキャッシュの方が出ていくキャッシュより大きいということ、つまり安全ということになります。
ただし、流動資産の中には長期間未回収となっている不良な売掛金や資産価値のない陳腐化した不良在庫などが入っていることがありますので、これらに該当するものがあれば、流動資産から除外して流動比率を分析すべきです。

流動比率は一般には200%以上であれば優良会社と言えますが、現在のような経営環境では150%以上であれば優良会社と考えて良いでしょう。



(3)当座比率
当座比率=当座資産÷流動負債×100

先ほどの流動比率では分子が流動資産でしたが、当座比率の場合は分子は当座資産です。
当座資産は、流動資産に含まれる現金預金、受取手形、売掛金、有価証券などの現金化できる資金のみを集めたものであり、棚卸資産は当座資産から除外されます。
つまり、当座比率は、すぐに資金化できる当座資産と流動負債を比較して、流動比率よりも厳しく短期の支払いの安全性をみようというものです。一般的には100%以上であれば優良会社と言えます。

 

(4)固定比率
固定比率=固定資産÷自己資本×100

固定比率は固定資産への投資額(つまり資金の運用)と自己資本との割合を示しています。この比率が100%以下であれば、固定資産より自己資本の方が大きいということを意味しますので、会社が長期に所有する固定資産が他人資本に依存せず自己資本だけで資金調達されていることとなり、経営は健全であると言えます。

固定資産への投資は回収には長期間が必要であり、なるべくなら返済する必要のない自己資本の範囲内で投資をした方が望ましいということです。



(5)固定長期適合率
固定長期適合率=固定資産÷(固定負債+自己資本)×100

固定比率は、分母が自己資本だけでしたが、固定長期適合率では、分母に長期間支払う必要がない社債や長期借入金といった固定負債を加えます。固定比率よりはやや緩い指標となりますが、固定比率同様、固定資産に投資するための資金調達の面で、経営が健全であるかどうかを考えようというものです。
固定比率は100%を超えているが、固定長期適合率が100%以下であれば一応固定資産への投資は健全であるということになります。

ところで、分子の固定資産には、有形固定資産と無形固定資産と投資その他の資産が含まれますが、ほとんどの中小企業は固定資産の大半は有形固定資産でしょう。
有形固定資産には製造業であれば、工場の土地、建物、機械といった設備への投資があります。卸売業、小売業であれば、物流センター、小売店舗の土地、建物、備品といった設備投資が考えられます。

土地以外の建物、機械、備品へ投資した資金は減価償却という方法で回収されます。投資した設備を使って製品を作り、商品を販売し、利益を獲得します。減価償却費は利益から差引かれる現金の支出を伴わない経費です。

会社の経営が順調で投資された設備が十分に稼働し、投資された資金が製造、販売活動を通じて減価償却によって正常に回収されていればよいのですが、物余り時代、少子高齢化などで販売が徐々に減少し、結果的に過剰設備投資となり、資金難に苦しんでいるケースも多いようです。

このような現実を考慮すると、自己資本の範囲を超えて他人資本である固定負債で資金調達して投資を行う場合には、借入金の返済について十分な見通しを立てた上で意思決定することです。計画通り返済ができなくなった場合のシミュレーションもあらかじめ考えておくぐらいの慎重さが必要です。

たとえ銀行が貸してくれるからといって甘い投資判断で借入金で投資をすることはきわめて危険です。銀行は「晴の時には傘を貸し、雨の時には傘を持ち帰る」というではありませんか。